naked blue

ちょっぴりえっちな恋愛小説のあるブログです。小説のみですが、仄かに一部R18となる大人な描写が散りばめられてます。


レンズの向こう側 75

 辺りを見回してもたった一つの色しか見えない暗闇に閉じ込められたあたしには光というものが全く見えてこない。あたしをそこから救い出してくれる一つの明るい兆し――希望の光が。
「やあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
我 を失い、発狂した声で叫び出す。自分がいるここが何処なのかって事もすっかり忘れて。
 壊れていく、ここに水瀬くんがいるのに。あたしの側には人がいるというのに。
 だけど、自分を止められない。過去の封印を紐解かれて。突然あたしの身に襲ってきた。
 過去の記憶、あの日のあたし。次々と脳裏に過ぎっていく。消せないものが直ぐそこに。
 嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!
 薄ら笑いを浮かべてあたしの側に近付くあの人。
 来ないで、来ないで、来ないで、来ないで、来ないで!
 あたしを壊して去っていったあの人。
 もう……来ないでぇ!
 最後の記念だ、と言ってあたしを閉じ込めてしまったあの人。
 あたしの側に来ないでぇ!!!!!
「マリー……………ちゃん?」
 水瀬くんは初めて見るあたしの姿に唖然としていた。目を大きく見開き、それは瞬きすら忘れて我を失ったあたしを見入ってしまう。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
 嫌な記憶を突如呼び覚まされた。思い出したくもない事を水瀬くんが。無意識に水瀬くんが呼び起こした。あたしを一生苦しめるものを水瀬くんが。あの人と全く同じ顔をする水瀬くんが。全てを。
「ちょっ、ちょっと、マリーちゃん!?」
 戸惑いの色を隠せない水瀬くん。未だに何も知らない以上、あたしの身に起きた事の状況を全く掴めないままただ只管あたしの跡を追い掛けて付いていこうとするだけでも精一杯だった。
「マリー………ちゃ」
 水瀬くんはこれ以上何も言葉にする事が出来なかった。あたしの見詰める表情で水瀬くんは一瞬にして表情が凍ってしまう。彼が高校に入学してからずっと避けられ続けて滅多に自分に向けられる事のなかった視線。そこにはとても言葉では言い表せない程の憎悪が水瀬くんに向けられていた。彼の顔にあの人の顔が影となって出てくる。寒気すらした。
「あの人と同じ顔であたしを見ないでよ!その汚らわしい手であたしに触ろうとしないで!!」

to be continued...

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  1. 2008/08/16(土) 23:16:48|
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レンズの向こう側 74

「…………………………」
 ぷるぷると首を横に振って恐怖に震える。涙がぽろぽろと零れて。深い深い海。あたしは絶望に陥る。
「―――――っ」
 水瀬くんは息を小さく呑んだ。だって聞こえないから、そこには。何も入らないからどんなに努力をしようとしても水瀬くんの声は全て通り過ぎてしまうのだ。
 それにあたしは一人、取り残されている。ここに。ぽつんと浮遊している。ゆらゆらしている。それは誰であろうと無断で勝手に入り込む事は許されない領域に。あたしがここにいる。
「何とか言ってくれよ!マリーちゃん!!」
 悲しい声。外には虚しく響いてくる水瀬くんの声。何もあたしの過去を知らない水瀬くんはただ困惑している。魂の抜けた器を目の当たりにして。まだ何か自分に対して言ってくれれば幾分安心するものの、何一つ反応してくれないから彼の不安材料は増すばかり。懸命な呼び掛けをしてもそれは自分の声ですら全く耳に入らなければ聞こえてもこない、何処か遠い自分の知らない世界へと旅立っているあたしを見て、自分の無力さを改めて思い知らされる。容赦なく突き付けられる現実。
「マリーちゃん、お願いだから……」
 何でもいいから言ってよ、と忽ち表情を歪ませて悲しみに溢れてくる水瀬くんは肩を落とすように項垂れた。
 限界を感じる。自分ではどうしようも出来ないのかもしれない。そこには計り知れない過去がある限り。ずっと閉じ込めている過去。悲しい過去が心に占めている。消しゴムのように簡単には消せない過去。自分の目の前に広がるもののように澄み切った綺麗なものでさえいれればどんなにいい事か。
「ここに戻ってきてよ…俺のいるところに……」
 現実世界では必死に水瀬くんが問い掛けてくれているのに今のあたしにはもう水瀬くんを考えていられる余裕すらない。我を失ってさえいなければちゃんとここに水瀬くんの姿を確認できるのに、ここにはいない。さっきまでいた筈の水瀬くんは忽然と何処かへと消えてしまった、あたしを一人置いてけぼりにして。
「マリーちゃん……マリーちゃん!!」
 全てが空回りとなってしまう。彼の存在よりも勝っているものがここにあると。この数年、何かある度に思い出させる。抹殺したいものなのに。いなくなれ、と何度も願うものなのに。今もあたしと共に生き続ける。
「……………んやっ」
 ただそこにあるものは過去にある恐怖のみ。あたしを目茶苦茶にした記憶。あたしを苦しませ、縛り付けている重い鎖。足枷。
「………マリーちゃん?」
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……………。

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  1. 2008/04/24(木) 00:28:40|
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レンズの向こう側 73

 やだ………っ。
 身体が震え、遠い記憶から過去の映像が巻き戻されていく。
 あ、あ、あたし……。
 それは一気に恐怖でいっぱいになる。
 ど、どうしてこんな所にまで?
 血の気が一気に引き、足の爪先にまで震えの振動が酷くなり、今はここで立っているのもやっと。
 ――克博。
 あの時にあたしを犯したあの男の顔が一瞬でも重なって見えてしまう。今の水瀬くんと全く同じ眼差しで。
 み、見ないで。そんな目で、そんな冷たい目で。水瀬くん、あの人と同じ目であたしを見ようとしないで!!
「―――――ゃっ」
「……マリーちゃん?」
 するとこの身に起きた大きな異変に気付いたのか、水瀬くんが怪訝そうにあたしを見てきた。
「どうしたの?マリーちゃん」
 目を瞠り、水瀬くんは段々心配になってきて再度あたしに声を掛けてくる。時に身体を揺らしてあたしを呼び覚ませようとしている。現実から背を向けるように自分の籠に閉じ篭もってしまったあたしを。
「マリーちゃん!」
 何も聞こえてこない。恐怖がすっかり打ち勝って。水瀬くんの声ですら。全く耳にすら入ってこない。もう……水瀬くんの姿ですらここにはいない。確かに目の前にはいたのに。さっきまであたしの視界にいた水瀬くんの姿がいつの間にか。忽然と見るも綺麗に消えていた。初めからいなかったみたいに、ここには。水瀬くんの存在は。ぱっと魔法使いみたいに。
「………やだっ」
 止まらない震える身体。水瀬くんの手の内にいながらあたしは一人恐怖に脅えている。全ての理性が一気に吹き飛ぶ程の破壊力。あたしを今も尚支配し続ける感情。ここにある。目の前に過ぎる消去したい映像。だけど消せない事実。身体に深く染み付いたもの。止まらない動悸。苦しみが――。
「やだ、やだ、やだ、やだ、やだ………」
 あたしは子供みたいに駄々を捏ねて首を大きく振った。解き放つ術すら知らない悲しみを。
 瞳には薄らと涙を浮かべて目の前の視界が歪んでいく。それは頬に伝う一滴。溢れたものが外に掻き出されるように零れて幾度も落ちる。
「マリーちゃん!!マリーちゃん!!」
 呼びかける水瀬くんの声。さっきまでいた筈の現実から一人の世界に落ちてしまったあたしを何度も呼びかけてくる。
 でも、無駄だった。

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  1. 2008/04/10(木) 23:43:02|
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レンズの向こう側 72

 あたしは表情を歪ませた。いつもあたしを毎日見ている水瀬くんにはそれぐらい容易いものなのだろうか。本来なら誰にも気付かれないであろうほんの些細な小さな変化であっても彼の目に入れば直ぐ見抜かれてしまう。
「……避けてなんかいないわ」
「でも避けている事には変わりないんだよ。マリーちゃんがそう言ったって俺の目にはそう映っている」
 そこで交わそうとしても次なる一手が透かさず出てくる。逃げようとしても直ぐに追い込まれてしまい、今や何処も行き場所を失っているあたしを更に追い詰めていく水瀬くん。それはじわじわと迫ってきて一歩も引こうとしない。一度狙った獲物をそう易々と見逃そうとはしなかった。
「……水瀬くんの勘違いよ」
「勘違いだって思ったら俺だって何も言わない」
「でも、勘違いなのよ」
「勘違いなんかじゃない、絶対」
「でも、ほんとに……」
 あたしは戸惑った。なかなか人の言うことを信じてくれない水瀬くんに。この状況は未だ平行線を辿って全然進展が見えない。唯一の手段であった打破する糸口が消えてしまって今はすっかり迷路に迷い込んでしまっていた。
「マリーちゃんっていつもみたいに強気でしゃきっとすればいいのにさ、そんな曖昧な態度だと俺、諦められないよ」
「だけど、あたしは言ったわ。水瀬くんが言ってくれって言われてちゃんと言ったんだから」
「本当に心の底から?」
「ええ、そうよ」
「嘘だ」
「どうして?」
「俺を誰だと思っているの?」
「そりゃあ水瀬くん、じゃない」
 何在り来たりな事を、とあたしは半ば呆れた視線を彼に向けていたが、そこで深く溜め息を吐く声がした。
「ほんとマリーちゃんって甘ちゃんな考えを持っているね。今まで俺の事なんか全然見ていなかったからそうなるんだよ。そんな嘘吐いたぐらいで俺が『はい、そうですか』って納得いくとでも?」
 呆れ、という感情を遥かに通り越してそれは冷めたような目付きであたしを見てくる。水瀬くんは明らかに『お前は馬鹿か』って言っている。眼鏡の奥にある瞳をすぅっと細ませてあたしを睨み付けてくる。
「……………っ!」
 多分、今までの付き合いの中で今回初めて見てしまった、余り見たくはなかった新たなる一面にあたしはびくりとした。
 そ、それは……。

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  1. 2008/04/04(金) 00:32:02|
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レンズの向こう側 71

 迂闊にも胸がどきりとした、今の彼の姿。濡れた髪から水がぽたぽたと額や頬、顎にまで滴り落ちている。さっきまで殆ど見ていなかったから余り気付こうともしなかったが、肌に張り付いて邪魔になった髪を掻き揚げた水瀬くんは酷く艶めいていた。高校生が持つには反則過ぎる色気。
 それに水も滴る何とやらとはよく言ったものだ。それは今の彼にとって相応しい言葉。元々のパーツが申し分のない出来なんだし、不覚にもあたしはそのように思ってしまった。水に濡れた彼を目の当たりにして。引き締まった身体には汗と一緒となって滑り落ちていく。あたしは酷く困惑した。
「み…水瀬くん」
 少し表情が歪む。
「痛いってば」
 水瀬くんに両腕を強く掴まれて痛かった。あたしがここから逃げ出さないように彼の手で拘束される。濡れた大きな手であたしに触れているから白衣が薄らと灰色に近い色で染まる。
 それは皮肉にも今のあたしを示すような同じ色。あたしの心は365日ずっと灰色に染まっている。
「いい?俺の目だよ」
 どうも納得がいかない水瀬くん。あたしを睨み付けるようにして真剣に真っ直ぐ見詰めてくる。
「だってその通りにしたわよ」
 本人がそう言ったんだからあたしはそうしたのだ。本当ならここで「解ったよ」と嘘でも言ってくれたら一番いいものの、全然違った反応をされてしまってあたしは戸惑いを隠せない。
 それは嘘だったの?
 だけどあたしは声を大にして言う事は出来ないだろう。それは声にして言いたくてもそこでは言えずにいるもどかしい自分。だってあたしは目の前でも平然と自分を偽っているし、それは水瀬くんにも対して同様に偽り続けている。現にあたしは嘘の仮面を着けて何とかこの場を乗り切ろうとそう思っている。ある一部分を除いては――。今は奥に押し込むように隠されている本当の自分が表から出てこないように彼と会話をしつつもそれを気にしながら。
「してない。俺が望んだものとは全く違うんだから。マリーちゃん、ずっと俺から避けている」
 真っ向から否定して絶対認めない水瀬くん。険しい目付きであたしを見るのは今も変わらない。
「だからって……」
 やがて訪れてくる広がる動揺。その背後からじわじわと忍び寄るように見る見る汚染されていくあたしの中で範囲を伸ばす最も良くない感情。容赦ない魔の手が伸びてきて、あたしの中で占めていた小さなものがやがて大きく成長していく。ずっと奥に隠し通しているのがとても辛すぎるものが。
「……………っ」

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  1. 2008/03/07(金) 00:16:41|
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